大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和39年(ワ)8177号 判決 1965年5月26日

主文

1、原告の請求を棄却する。

2、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

1、原告の請求の趣旨、請求の原因及び被告の主張に対する反論は別紙中のその記載のとおりである。

2、被告の答弁及び主張は別紙中のその記載のとおりである。

3、証拠関係(省略)

別紙

請求の趣旨

被告は合同して原告に対し金参百万円也及びこれに対する昭和三九年四月三〇日から右金額完済に至るまで年六分の割合による損害金を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

旨の判決並びに仮執行の宣言を求める。

請求の原因

一、被告関西急送株式会社は昭和三九年三月二八日訴外日邦開発株式会社宛に次の要件の約束手形一通を振出した。

(1)手形金額 金参百万円也

(2)支払期日 昭和三九年四月三〇日

(3)支払地  京都市

(4)支払場所 株式会社東海銀行京都支店

(5)振出地  京都市

(6)受取人  日邦開発株式会社

二、右受取人の日邦開発株式会社は右手形を訴外南海工業株式会社に裏書譲渡したので更に昭和三九年三月三一日原告は訴外南海工業株式会社から右手形の裏書譲渡を受けて所持人となつたものである。それで原告は支払期日に支払場所に手形を呈示して支払を求めたところ支払を拒絶された。

三、それで原告は被告に対しその不履行を通知し重ねて支払を求めたが支払をしないので本訴請求に及んだものである。尚裏書人は何れも拒絶証書の作成を免除する旨を表示している。

被告の答弁及び主張

請求の趣旨に対する答弁

原告の被告関西急送株式会社に対する請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

請求の原因に対する答弁

一、認否

(イ)請求の趣旨第一項は否認

(ロ)同第二項については、本件手形に原告主張の如き裏書があること、支払が拒絶せられた事実は認める。

(ハ)同第三項は認める。

二、被告関西急送の主張

(イ)本件手形は訴外沢博士なる者が、被告関西急送株式会社(以下被告関西急送という)代表取締役川本直水名義の印章を冒用して、川本直水名義で振出交付したものであるから偽造手形であり、被告関西急送は手形上の責に任ずる限りではない。

その詳細は左の如くである。

(ロ)被告関西急送の代表取締役であつた川本直水は、昭和三十九年三月二十日付で訴外日邦開発株式会社代表取締役佐竹三吾と、川本直水並にその他の所有する被告関西急送の株式一二萬二一八株を金一億八千萬で譲渡するという趣旨の仮契約を締結し、同年四月七日に開催せられる被告関西急送株主総会に於て佐竹三吾、小倉基嗣、沢博士その他を取締役に選する予定にしていた。

然るに訴外沢博士は取締役に選任せられる以前たる三月二十八日に川本直水名義の代表取締役の印章を冒用して本件手形を振出交付し、それによつて得たる金員を被告関西急送の目的以外の自己の使途に費消していることが判明した。(被告関西急送に入金になつていない事実は帳簿上明かである。)

なお訴外日邦開発株式会社も遂に仮契約に基く金員を支払わず、有耶無耶となり、又訴外沢博士が果して何通手形を偽造交付しているか不明であり、被告関西急送は昭和三十九年七月六日付で訴外沢博士を手形偽造並に特別背任容疑を理由に告訴した。

被告の主張に対する原告の反論

一、被告関西急送株式会社(以下関西急送と言う)は、本件手形は訴外沢博士が関西急送の印章を冒用した偽造手形であるから、責任がないと主張するが、それは以下に述べるところにより理由がない。

即ち、関西急送の代表取締役社長である川本直水が、昭和三九年三月二〇日同会社を支配し得る一二万余の株式を、右訴外沢及び小倉等の経営する訴外日邦開発株式会社(以下日邦開発と言う)に譲渡する契約をし(乙第一号証及び沢証言第二〇問答)、且、川本等の全役員の辞任届を提出すると共に(乙第一号証の第四項)、関西急送の手形振出を含む全業務の権限を右沢、小倉等に委任し、会社の印章も同人等に保管せしめたことは、右沢証言(第二〇乃至第二四問答)及び北鉄夫証言(第七五問答)により明らかなところである。その上右小倉及び沢は何れも関西急送の取締役に選任されることが予定されており、且現実に四月七日それぞれ代表取締役に選任されて登記を了したことも、記録添付の商業登記簿謄本の記載に照し明らかなところである。

二、更に又、被告関西急送の印章を、右小倉等に預かつてもらうことに話を決めたとき、小倉が「おれは経理の方はやらないから沢君に相談するように」と云われたことは、被告関西急送の取締役北鉄夫の証言(同証言調書第七五問答)により、明らかなところであるから、右三月二〇日以後の被告関西急送の全業務、殊に経理関係の業務は、全面的に右沢博士の指揮監督を受けて、運営されたことが窺い知り得るのである。

三、以上の諸点を綜合して考えると、右三月二〇日以後は、被告関西急送の登記簿上の代表取締役である川本直水は、自ら被告会社の業務を執行することが許されなくなり、その代りに右小倉及び沢等が被告会社の業務を執行する約定ができ、そのうちの経理関係や手形発行等は専ら右沢に委ねられ、新代表取締役が選任登記されるまでは、右代表取締役川本直水の名義で従来の印章を使用して、業務を遂行することに取り決められて、その通り実行されていた事実が認められるのである。従て、仮りに本件手形が三月二八日に右沢又は同人の指図により発行されたとしても、それは被告関西急送の手形として有効なものであること明瞭であるから、善意で本件手形を取得した原告に対し、被告は本訴請求の支払をなすべき義務がある。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例